離婚原因については、民法770条1項に定められています。そして、不倫は同1号の「配偶者に不貞な行為があったとき」にあたることから、一度だけの肉体関係でも十分に離婚原因になることはあるでしょう。「不貞な行為」とは、 「配偶者のある者が、自由な意思に基づいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと」であって、そこに回数についての記載は一切ありません。とすれば、1度だけの肉体関係であっても不貞行為にあたると考えるべきでしょう。
もっとも、離婚原因がある場合であっても、「一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるとき」には裁判所が離婚を認めないことはあり得ます(同条2項)。裁判所としては、一度の肉体関係に関して深い反省を示すなどしている場合などであって夫婦関係が破綻していない場合には離婚は認められないとすることはあり得るでしょう。だからといって、一度限りの誤りならばという気持ちでいるのは危険です。あくまで、肉体関係が一度だけだから離婚原因とはならないのではなく、そこに夫婦関係の破綻があれば十分に離婚原因ありとされることになります。
不倫慰謝料請求も、不法行為にもとづく損害賠償請求であることから、その要件を検討することになります。それを不倫慰謝料請求におけるものとして一般化すると以下のようにまとめられます。
一つずつ検討していきましょう。
①:不貞⾏為があったこと
判例では不貞⾏為について、「配偶者のある者が、⾃由な意思に基づいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと」としています。(詳細について⾵俗通いも不倫?参照)
②:損害として認められる精神的苦痛があること
不法⾏為法上、ここでいう「損害」とは、不法⾏為により現実に⽣じた⾦銭的な被害のことをいいます。これを不倫慰謝料におきかえれば、不倫⾏為から⽣じる精神的苦痛ということになります(離婚慰謝料と不貞慰謝料の違いは?参照)。
そして、この精神的苦痛は、単に嫌だという感情を主張しても「損害」が認定されることはなく、定型的にこのようなことをされれば⼀般⼈は苦痛と思うだろうといった⾏為がある場合やノイローゼなどにより精神科の通院歴があるなどといった精神的苦痛をうかがわせる事情がある場合に、精神的苦痛があったと認定されます(性交渉・⾁体関係がなければ慰謝料請求されない?参照参照)。
また、夫婦関係が破綻している場合には、損害がないとされる場合もありますあります(結婚していても不倫慰謝料請求が認められない場合とは?参照)。
③:②の損害についての故意⼜は過失
これに関しては、不倫した夫もしくは妻が請求されるのか、不倫相⼿が請求されるのかで異なってきます。というのも、不倫した夫もしくは妻は当然にそれが不貞⾏為にあたることはわかっていたはずです。したがって、不倫を誘ってきたのは不倫相⼿からといった⾔い訳は、法的には何ら意味を持ちません。
⼀⽅、不倫相⼿側においてそれが不倫にあたるかにつき故意⼜は過失があるかは問題となります。未婚者とのお付き合いのつもりだったといった主張がなされれば、不倫された夫もしくは妻の側で不倫相⼿は既婚者であることを知っていたと⽴証しなければなりません。もっとも、不倫にあたることについて知ることはできたというような場合であればこれを⽴証すればよいこととなります。例えば、左⼿の薬指に指輪をしているのを⾒たといえれば、それは相⼿が既婚者であることはわかるはずであり、過失があるということになります。また、職場不倫であれば、通常既婚・未婚の事実は知ることができたといえることがほとんどでしょう。
④:①の不貞⾏為によって②の損害が⽣じたこと(因果関係)
不倫が認められれば、これによって精神的苦痛が⽣じるのが⼀般です。もっとも、例えば、ノイローゼにはなっていたが、その要因は不倫とは全く関係がないものから⽣じたといえれば、因果関係は認められないこととなります。
以上の①〜④の要件は、慰謝料を請求する側としては、これらの要件に該当する事実を主張して、裁判所に証明しなければなりません。⼀⽅、請求される側としては、裁判所にこれらの要件に該当する事実があったかわからないようにすればよく、その事実がなかったことまでを積極的に証明する必要はありません。
不倫の慰謝料請求も不法⾏為にもとづく損害賠償請求である以上(不倫慰謝料請求の法的根拠は?参照)、消滅時効の時効期間は3年となります。問題となるのはいつから3年なのかですが、厳密には不貞慰謝料は不倫が⾏われていることを不倫された夫もしくは妻が知った時から、離婚慰謝料は離婚成⽴時となります。もっとも、⼀括して処理する場合には離婚成⽴時で統⼀する運⽤がとられています。
また、判決で確定したあとの慰謝料請求権は、消滅時効の時効期間は10年とされています。
結婚していれば、不倫した場合に、慰謝料請求が認められるのが通常です。もっとも、結婚していても夫婦関係が破綻していれば、不倫慰謝料請求が認められない場合があります。不倫が不法⾏為となるのは、それが婚姻共同⽣活の平和の維持という権利⼜は法的保護に値する利益を侵害する⾏為ということができるからです。とすれば、婚姻関係が既に破綻していた場合には、このような権利⼜は法的保護に値する利益があるとはいえないですから、損害が認められなくなり ます。
夫婦関係が破綻したといえる例としては、夫婦別居が挙げられます。これは住居を別所に構えていることが必要であり、家庭内で別居している場合には、夫婦関係が破綻していると⽴証することは通常困難でしょう。また、別居していたとしても、それが単⾝赴任等である場合には、夫婦関係が破綻しているとは限りません。例えば、俗にいう現地妻、単⾝赴任先における不倫相⼿などがいる場合には、確かに夫婦が別居していますが、夫婦関係が破綻しているかどうかは別 居という事実からは判断ができません。その他の事実を考慮して夫婦関係の破綻が認められる場合もありますが、⼀般的には困難でしょう。
内縁関係とは、双⽅が婚姻の意思を持って共同⽣活を⾏い、社会的に夫婦と認められていながらも、婚姻届を出していない状態のことをいいます。そして、この内縁関係も婚姻に準ずる関係として法律で保護されますので、相続権を除いて通常の夫婦としての義務を負い、権利を持ちます。したがって、内縁関係でも不倫慰謝料は請求されることがあります。慰謝料請求されるかどうかも基本的に法律婚と同様に考えてもらって構いません。
むしろ内縁関係で不倫慰謝料請求される際に争いとなるのは、2⼈の関係が本当に内縁関係であったといえるかです。
単に同棲を続けているだけでは、共同⽣活を⾏っているといえるだけで、内縁関係が肯定されるわけではありません。お互いの婚姻の意思、同居期間の⻑短、性的関係の継続性、両親や親せき、友⼈など第三者への婚姻の報告、挙式など区切りとなる⾏事、など諸事情を総合的に考慮して判断することになります。もちろん、どれかが⽋けても内縁関係は肯定され得ます。
⼤事なことは、恋⼈同⼠ではなく夫婦であるという互いの認識が認められるような事情があるかどうかとなります。当然その判断は線引きが難しいのでいろいろな事情をみて判断していこうということです。
⼀⽅、婚約した場合であっても、今度は共同⽣活したといえなければ、内縁関係は認められません。つまり、婚約したけどまだ⼀緒に暮らしていないという場合には内縁とはいえず、婚約しているだけということになります。もちろん、単⾝赴任等の場合もありますから、共同⽣活しているか否かも諸事情により判断せざるをえません。
不倫した側からすれば、内縁関係の存在を争うことが多くあります。また、内縁関係ではあったが、既に破綻した後の交際であるとの反論をすることもあります。
不倫慰謝料の他にも、離縁するのであれば、財産分与や離縁慰謝料を請求されることがあります。
性交渉や⾁体関係がない場合、慰謝料請求はできないというのが実務上の傾向であるとは思います。もっとも、あくまで傾向であって絶対ではありません。実際の裁判例で、⾁体関係はなかったが、夫と恋⼈との親密な関係が、夫から妻への冷たい態度に影響していると判断されて慰謝料が認められたケースがあります。
そこで、具体的にはどのような場合に⾁体関係がなくても慰謝料請求が可能となるのでしょうか。
そもそも、不倫による慰謝料請求について、⾁体関係は必須のファクターであるとした最⾼裁判例はありません。⾁体関係が不倫を認定するうえにおいて重要なファクターであることから、慰謝料請求の中⼼的な争点になることは多いでしょう。なぜ、重要なファクターになるのかといえば、性交渉や⾁体関係はそれのみで直接的に不貞⾏為として慰謝料請求の対象となる⾏為となるからです。とすれば、直接的ではないにしろ、慰謝料請求の対象となるような⾏為が認められれば、慰謝料請求は可能なのです。慰謝料請求とは「不倫慰謝料請求の法的根拠は?」でも述べますが、精神的苦痛に対する賠償請求のことです。ここにいう精神的苦痛とは「嫌だと思った」などといった内⼼を捉えて損害とするものではありません。基本的には、定型的にこのようなことをされれば⼀般⼈は苦痛と思うだろうといった⾏為がある場合やノイローゼなどにより精神科の通院歴があるなどといった精神的苦痛をうかがわせる事情がある場合に、精神的苦痛があったと認定して 慰謝料の請求が認められます。したがって、⾁体関係がなくても上記のような客観的事情があれば精神的苦痛があっただろうと認められることになるのです。
そこで、このような客観的事情とはどのような場合があるのかといえばこれは個別的なケースに応じて判断していくしかありません。まず、仕事のお昼休みに⾷事をしたといった場合や、仕事帰りに⼀杯飲みに⾏くといった場合には慰謝料請求されるといったことは考えられません。この程度では精神的苦痛が⽣じたとは⼀般的にいえないからです。もっとも、⼀般的な友⼈関係を超えて会⾷を重ねていたといった場合や、通常の域を越えたプレゼントを度々あげていたといった場合には精神的苦痛があるとして、慰謝料請求が認められる可能性は否定できません。
慰謝料を算定する際、実務上、①有責性、②婚姻期間、③相⼿⽅の資⼒が主だった算定の要素となります。そして、不倫しないと約束した後の不倫の慰謝料といった事情は、①有責性の要素となります。
まず、不倫しないと約束したということは、初めての不倫ではないということになります。とすれば、反省していなかったということが窺えます。また、不倫をしたのに離婚には⾄らず再出発を約束したのに再度不倫をしたということは、初度の不倫と⽐して裏切りの度合いもより⼀層強いものとなります。このほかにも、同じ相⼿⽅との不倫であれば、不倫相⼿は⼀度協議して不倫したとの認識を強く持っていることから、家庭崩壊のリスクを初回の不倫時よりも⼀層強く認識しているといえるでしょう。これらの事情からすれば、初度の不倫よりも上記約束を反故にした不倫の⽅が責任はより重たいといえます。とすれば、慰謝料算定においてより⾼額な慰謝料を請求されることがあるでしょう。
もっとも、そもそも資⼒がなく、前回の慰謝料の⽀払いによりさらに資⼒が低下したといえるような場合も考えられますから、必ず慰謝料が⾼くなるとまではいえません。
「不倫 慰謝料」とインターネットで検索すれば⾏政書⼠、司法書⼠、弁護⼠それぞれの相談サイトがヒットするかと思います。そして、⼀般の⽅からすれば、これら3者の違いはわかりにくい⾯もあるかと思います。簡単にいえば、⾏政書⼠は⽂書作成(代書)、司法書⼠は登記・供託がその業務内容です。司法書⼠に関しては、法務省の認定を受けることにより⼀定の⺠事事件についても業務とすることができるとされています。これに対して、弁護⼠は全ての法律業務を扱うことができます。
そこで、不倫慰謝料請求の場合には以下のような業務をすることができます。
⾏政書⼠は、不倫した⽅に代わり慰謝料請求に対する回答についての内容証明郵便を作成することができます。もっとも、これについて相⼿⽅と交渉する権限はありません。そして、⾼裁判例ですが⽂書によっても交渉することは許されていません。つまり、あなたがどうしたいのかを⽂書に書き起こす作業をしてくれるのが⾏政書⼠ということになります。
司法書⼠のうち、法務省の認定を受けた認定司法書⼠は140万円以下の⺠事事件について扱うことができます。慰謝料の相場からすれば、この認定司法書⼠が扱うことのできる事件はかなり限られるといえます。実際の認定額が結果的に140万円以下となることはありますが、請求段階では通常140万円を超えて請求されるケースがほとんどです。
弁護⼠は、法律業務につきなんらの制限がありません。したがって、内容証明郵便を作成するのはもちろん、これを⽤いて相⼿⽅と交渉することができます。当然、電話による交渉や、直接会っての交渉もすることができます。そして、⾦額による制限はありません。多額の慰謝料請求であっても、140万円以下の慰謝料請求であってもこれを扱うことができます。
弁護⼠に相談して事件を解決していくメリットは多々あると思います。
まず、弁護⼠であれば本⼈に代わって全ての⼿続きを⾏うことができます。不倫事件の解決は泥沼になることも⼗分考えられます。これを、本⼈が⼿続きに積極的に関与しなければならないのは、⽇常⽣活に⽀障をきたしかねません。
そもそも、どの段階で⾏政書⼠や司法書⼠から弁護⼠へと依頼を変えるべきかのタイミングの判断は⾮常に困難です。そして、ケースにはよりますが、ほとんどのケースで弁護⼠が必要となると考えられます。このタイミングを紛争に巻き込まれている⽅が適切に判断するのは難しいでしょう。
そこで、当初から弁護⼠への依頼をすることをおススメ致します。弁護⼠を選択したことによるデメリットはないといえるでしょう。
そもそも夫や妻が不倫しなければ慰謝料なんて請求しなかったんだから、弁護⼠費⽤や探偵費⽤もかからなかった。だから、これらも損害として賠償して下さい。
このような⾔い分も全くわからないわけではありません。実際、これも⽀払うという形で⽰談されるケースもあります。もっとも、慰謝料請求も不法⾏為にもとづく損害賠償請求ですから、損害と不倫⾏為との間に因果関係が必要です。そして、これは相当な範囲の損害についてのみとされていますから、不倫から⽣じる相当な範囲の損害についてのみ慰謝料として請求されるということになります。そこで問題となるのは、弁護⼠費⽤や探偵費⽤は不倫から⽣じる相当な範囲の損害といえるかということになります。
まず、弁護⼠費⽤ですが、不倫慰謝料を請求するための代理⼈が弁護⼠となりますから、トラブルに巻き込まれた以上弁護⼠にお願いするのも妥当であるといえます。したがって、これを請求することは可能です。もっとも、これは裁判上慰謝料の1割とするのが慣例となっています。なので、実際にかかった弁護⼠費⽤を請求することはできませんが、慰謝料の1割は慰謝料請求のうちに含まれているということになります。
⼀⽅、探偵費⽤ですが、これは裁判例が少ないとはいえ判断が分かれています。そもそも、探偵会社は完全な私企業ですから、その費⽤は会社ごとに異なります。そして、低額な探偵会社であれば数⼗万円で済むようですが、⾼額な探偵会社であれば数百万円かかることもあるようです。もちろん依頼内容によりその額も変わってきます。そして、これは不倫しなければ本来相⼿⽅が⽀払う必要のなかったはずの⾦銭ではあり、これも相当な範囲の損害であるべきだとされ得ま す。もっとも、探偵費⽤⾃体が相当な範囲の損害であったとしても、全額が相当の範囲といえるかは別途検討されることになります。
不倫がバレると修羅場になるのは当然ですが、その修羅場の⼀⾓を担うのが不倫相⼿からの慰謝料請求です。
慰謝料の具体的な発⽣要件の話は置くとして、ここでは、クラブのママなどが常連客を捕まえておくために⾁体関係を持つ、いわゆる枕営業の場合に、配偶者からクラブのママなどに対して慰謝料請求できるかという話をしたいと思います。
そもそも、不貞⾏為に恋愛感情までなくとも慰謝料が発⽣することはありますが、だからといって⾵俗嬢などに対しても慰謝料請求できるかというと、妻から夫に対して慰謝料請求できるというのはまだしも、⾵俗嬢に対しては慰謝料請求できるというべきではないように思われます。ただ、枕営業の場合にはどうかと⾔われると、専⾨家の間でも意⾒が分かれるのではないでしょうか。
この点について、近年、枕営業の場合には枕営業をした者に対する慰謝料請求はできないという裁判例が現れました(東京地裁平成26 年4 ⽉14 ⽇判タ1411 号312 ⾴)。
⼀般に、裁判例というものは証拠がすべてですので、結論を容易に⼀般化すべきできないところがあるのですが、裁判所が法解釈を⽰す部分については、最⾼裁のものでなくともそれなりの先例性があるということができます。この裁判例も、特殊な事例としての事例判断というよりは、枕営業としては極めて⼀般的なもので、かつ裁判官が事実をある程度抽象化して法解釈を⾏っていることから、それなりの先例性を有しているということになります。
話が少しマニアックになってきましたが、裁判所が⽴てた法解釈は、要するに、
という流れです。この結論が実務的に維持されうるかは難しい問題ですが、維持される可能性は⼗分にあるといえそうです。
以下、参考までに判決⽂の重要部分を引⽤します。
ソープランドに勤務する⼥性のような売春婦が対価を得て妻のある顧客と性交渉を⾏った場合には,当該性交渉は当該顧客の性欲処理に商売として応じたに過ぎず,何ら婚姻共同⽣活の平和を害するものではないから,たとえそれが⻑年にわたり頻回に⾏われ,そのことを知った妻が不快感や嫌悪感を抱いたとしても,当該妻に対する関係で,不法⾏為を構成するものではないと解される。
『枕営業』の場合には,ソープランドに勤務するような⼥性の場合のように,性交渉への直接的な対価が⽀払われるものではないことや,ソープランドに勤務する⼥性が顧客の選り好みをすることができないのに対して,クラブのママやホステスが『枕営業』をする顧客を⾃分の意思で選択することができることは原告主張のとおりである。
しかしながら,前者については,『枕営業』の相⼿⽅がクラブに通って,クラブに代⾦を⽀払う中から間接的に『枕営業』の対価が⽀払われているものであって,ソープランドに勤務する⼥性との違いは,対価が直接的なものであるか,間接的なものであるかの違いに過ぎない。また,後者については,ソープランドとは異なる形態での売春においては,たとえば,出会い系サイトを⽤いた売春や,いわゆるデートクラブなどのように,売春婦が性交渉に応ずる顧客を選択することができる形態のものもあるから,この点も,『枕営業』を売春と別異に扱う理由とはなり得ない。
そうすると,クラブのママやホステスが,顧客と性交渉を反復・継続したとしても,それが『枕営業』であると認められる場合には,売春婦の場合と同様に,顧客の性欲処理に商売として応じたに過ぎず,何ら婚姻共同⽣活の平和を害するものではないから,そのことを知った妻が精神的苦痛を受けたとしても,当該妻に対する関係で,不法⾏為を構成するものではないと解するのが相当である。
よく、⾵俗は遊びだから恋愛ではない以上、不倫ではない、といった主張を繰り広げる男性がいます。しかし、判例は不倫(不貞⾏為)について、「配偶者のある者が、⾃由な意思に基づいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと」としています。つまり、⾵俗に通うことにより性的関係を結んだといえればそれは不倫にあたるということになります。
そこで、ここにいう「性的関係」がいかなるものをさすのかが⾵俗通いが不倫にあたるかのポイントとなってきますが、この点について最⾼裁判所による判断はありません。もっとも、下級審の裁判例の傾向からして、「性的関係」とは性交のみを指すと考えられ、それ以下の性的⾏為は含まれません。⾵俗では性交を⾏わないことを建前としている以上、不倫にはあたらないと判断することになります。もちろん、建前に反して性交に及んだことを⽴証された場合や営業外で店舗の外において「性的関係」を結んでいた場合には、不倫にあたることはいうまでもありません。
とすれば、⾵俗通いそれのみでは不貞⾏為にはあたらず慰謝料請求はできないといえそうですが、その他の事情を総合的に判断するうえで「その他婚姻を継続し難い重⼤な事由」があると判断されて離婚事由の⼀因とされることは考えられます。例えば、⾵俗通いが妻に発覚し、以後やめてほしい旨懇願されたのにも関わらずなお⾵俗通いを続けた場合がこれにあたるでしょう。⼀⽅、別居するなどして夫婦関係が破綻していると認められる場合には、⾵俗通いをしていたとしても「その他婚姻を継続し難い重⼤な事由」があるとは認められないでしょう。
なお、上記東京地裁平成26年判例は、妻がクラブのママを相⼿に慰謝料請求できないという判断に関するものであって、夫に慰謝料請求することができるか否かを判断したものではありません。もっとも、「ソープランドに勤務する⼥性のような売春婦が対価を得て妻のある顧客と性交渉を⾏った場合には、当該性交渉は当該顧客の性欲処理に商売として応じたに過ぎず、なんら婚姻共同⽣活の平和を害するものではない」としていることから、これが不貞⾏為とされることや、婚姻を継続し難い重⼤な事由と判断されることはないともいえそうです。この点に関しては、今後の裁判例の⾏⽅を⾒守る必要があります。
不倫をした夫もしくは妻と復縁はしたいが、不倫相⼿は許せないといった⽅もいらっしゃいます。そもそも、不倫相⼿に対する慰謝料請求は離婚を前提としなければならない理由はないため離婚する復縁するに関わらず請求され得ます。⾦銭的解決をする以上離婚は避けられないといった考え⽅がある⽅もいらっしゃいますが、法的にはどちらかを選べばどちらかが選べなくなるというような択⼀関係にはありません。また、不倫をした夫もしくは妻に請求するのは、夫婦の財布は⼀緒だから無意味な請求であると思われる⽅もいらっしゃいますが、建前上夫婦の財産は別産制とされており現実に財布が同じだったとしても請求をすることはできます。この際不倫における慰謝料請求のケースではないですが、扶養義務により補填されることもないとする裁判例もあります。
では、離婚もしないうえに実質的には⾦銭の移動がないかもしれない慰謝料請求がなぜされるかということですが、不倫をした夫もしくは妻に反省をうながすという効果をねらうことです。あくまで⼼理的な効果でしかないかもしれませんが、法的⼿段に出ることによって事の⼤きさに気付いてもらうことにより今後の不倫の防⽌にもつなげようとするものです。
もちろん、不倫相⼿が慰謝料を請求されることもあります。慰謝料を払う際に不倫をした夫もしくは妻とは⼆度と接触を持たないといったことが条件として付されることにより⼼理的圧迫をかけられることもあります。
もっとも、慰謝料額は離婚する場合と⽐して少なくなることが予想されます。離婚をしない以上離婚慰謝料を請求することはできず、不貞慰謝料のみしか請求されないからです(離婚慰謝料と不貞慰謝料の違いは?参照)。とはいえ、これは裁判によって請求された場合の話であって、当事者間の合意で慰謝料を決める際には、請求される場合もあります。
裁判例では明確に区別して扱われることも多くなく、実務上⼀括して処理されることが少なくありません。ではなぜ区別されているのかというとその内容が異なるからということになります。内容⾃体は上記の説明通りなのですが、⼤事なことはそれぞれ別個に請求することができるということです。
不倫による精神的苦痛と離婚による精神的苦痛はそれぞれ別々の精神的苦痛であるからそれぞれについて慰謝料を払うようにいえるということになります。
この2つの請求は不倫した夫もしくは妻と不倫相⼿の両⽅に対して請求することができます。しかし、両取りできるわけではありません。法的には、不真正連帯債務というもので、それぞれの債務者が全額を⽀払う義務を負うこととなります。
例えば、両⽅に請求した結果不倫した夫もしくは妻には100万円、不倫相⼿には200万円の慰謝料が認められたとしても、不倫された夫もしくは妻は300万円が⼿元にくることはないのです。不倫相⼿が200万円⽀払った場合には、不倫した夫もしくは妻は⽀払う必要はなくなります。⼀⽅、不倫した夫もしくは妻が100万円⽀払った場合は、不倫相⼿は残100万円を⽀払う必要があります。この際、この2⼈が折半と内部で合意して2⼈で合計⽀払ってきた場合も適法となります。不倫相⼿からどうしても200万円得たいといってもこれは認められません。ただし、判決ではなく和解などで当事者間において不倫相⼿が200万円必ず⽀払うようにという合意は可能です。ただし、不倫相⼿が合意があるから150万円しか⽀払わないといって請求を拒むことはできません。
また、離婚慰謝料は離婚するときにしか認められません。
夫もしくは妻が不倫をした場合、不倫された夫もしくは妻は不倫をした夫もしくは妻や不倫相⼿に対して⾦銭による賠償を求めます。これがいわゆる不倫慰謝料請求にあたり、法的根拠としては、⺠法709条・710条がその根拠となっています。
⺠法709条(不法⾏為による損害賠償)
故意⼜は過失によって他⼈の権利⼜は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって
⽣じた損害を賠償する責任を負う。
⺠法710条(財産以外の損害の賠償)
他⼈の⾝体、⾃由若しくは名誉を侵害した場合⼜は他⼈の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負うものは、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
慰謝料請求とは、法的には精神的苦痛に対する損害賠償であって、⾮財産的損害に対する賠償のことをいいます。すなわち、不貞慰謝料請求とは、不倫によって受けた精神的苦痛を慰謝する損害賠償といったものとなります。
不法⾏為による損害賠償請求といった場合、例えば路上で⼝論になった際に⼀⽅的に殴られて怪我をしたといったような場合が考えられます。この場合には、怪我の治療費や、その時に腕時計が壊れたので修理したといった損害は、財産的損害としてこれを賠償するよう請求することができます。そして、これとは別に殴られて負った精神的苦痛に対して、別途請求することもでき、これが慰謝料請求にあたるわけです。
不倫の事例であれば、不貞⾏為⾃体から財産的損害が⽣じることはありません。不倫をした夫もしくは妻から交渉中に殴られて怪我をしたような場合には別途賠償請求できるので、これも不貞⾏為⾃体から損害が⽣じたということにはなりません。そこで、精神的苦痛を負ったとして慰謝料を請求することになるのです。
不倫をした⽅からすれば、不倫をしたのもそもそも夫婦関係のすれ違いがきっかけであって、今の夫もしくは妻とは離婚したいと考えることはあり得るようです。とはいえ、不倫をすれば、それは法律上「不貞な⾏為」として離婚原因となります。したがって、不倫された側からすれば、こちらから離婚を切り出すならまだしも相⼿に⾔われるのは納得いかないというのももっともなところでしょう。
このような問題意識から、最⾼裁判所は、婚姻が破綻している場合であっても、破綻について責任のある者(有責配偶者)からの離婚請求は信義誠実の原則に反し、認めないとしています(最⾼裁昭和27年2⽉19⽇判決)。
もっとも、この信義誠実の原則に反するか否かは事例によるということになりまして、これについて最⾼裁も要件をたてて例外を認めています。
その要件とは、
とされています(最⾼裁昭和62年9⽉2⽇判決)。
このような例外が認められるようになったのは、破綻した婚姻を維持させることへの疑問からであるといわれています。
このような事例でよく問題となるのは、①の「⻑期の別居」とは具体的に何年なのかということです。上記の最⾼裁判決の事案では別居期間35年と⼤変⻑期間の別居があった事例でした。しかし、10年・8年の別居で認めた場合もあれば、8年の別居であっても認めなかった場合もあります。同じ8年なのに結論が異なったのは単に年数のみで判断するのではなく、他の要件での事情も考慮して判断していることがうかがえます。実際、8年の別居で認めた事例では、有責 配偶者からの財産給付が⼗分に⾏われたというものでした。その後、裁判例ではありますが、6年の別居であっても認めた事例がありますので、やはり事例によるのだろうと考えられています。そして、その際にもっとも重要視されるのが財産給付の有無・程度であるようです。
そして、原則としてはこれらの3つの要件を全て充たさなければ離婚はできないと考えられています。しかし、最⾼裁でも、未成熟⼦がいるケースで別居期間14年といった場合に離婚を認めたものもあります。未成熟⼦の有無については、監護・教育・福祉の状況に鑑みて未成熟⼦が苛酷な状況におかれないようであれば、未成熟⼦がいる場合であっても離婚は認められるようです。かねてから、破綻した夫婦のもとで育つことは⼦の幸福にはならないといった批判もあるところでしたので、②の要件については絶対的なものとはいえないでしょう。
不倫や浮気といったことをするのには、⼼理学的に理由があるようです。そして、不倫や浮気をする男⼥の⼼理状態は男⼥によって異なります。もちろん、個⼈差がありますので、あくまでその傾向ということにはなります。⼼理学の専⾨家ではありませんが、簡単にそれぞれの⼼理状況を考えてみましょう。
まず、⼈間は、⽣物学的に種の保存としての⽣殖⾏為として⾁体関係をもとうとしますので、優性に思えるような異性に惹かれる⾯があります。もっとも、社会的動物である⼈間は、理性を持って⾏動しようとするので、不倫をしてはならないというルール(法律)がある以上、これにブレーキをかけています。我が国においては、不倫は不法⾏為を構成し、離婚原因にもなりますので、これが妥当します。もっとも、ルールとして⼀夫多妻制を採っている国においては、当然にこれは妥当しません。
不倫の禁⽌がルール(法律)である我が国において、それでもなお不倫をしようとすることは⼀般的に「承認欲求」の現れであると考えられています。もっとも、男性の場合、この承認欲求と性的欲求は別物として存在すると考えられています。⼀⽅、⼥性は承認欲求を前提に性的欲求が後追いするような状態だと考えられています。
男性の場合は、まず単純に性的欲求のために不倫に⾄るケースが多くあります。⼥性も全くないというわけではないと思われますが、⼀般的には男性の⽅がこの傾向が強いようです。これをブレーキするのが理性なのですが、単にブレーキをかける気がない男性もいます。どうしてブレーキをかける気がないのかというのは、その⼈の性格や環境によるのでしょう。⼀⽅、承認欲求のために不倫する男性もいます。この承認欲求は社会的な承認であることが多いです。⾃分が社会的によりよい地位にいたいという欲求があるうえで、⼥性を⾃⼰のステータスと考えているような男性であれば、この承認欲求により不倫をすることがあります。
⼥性の場合は、「ワタシを⾒て!ワタシを認めて!」という承認欲求がまず存在します。そして、これは単に⾒られて認められればよいのではなく、尊敬・敬意に値する相⼿からのものを求めています。そして、⼥性はこの承認を補完するために性的欲求が存在するそうです。このような傾向の表れとして、⼥性の不倫は職場不倫が多いという統計もあります。尊敬しやすい上司がいるという環境は、性格的に承認欲求が強い⼥性には不倫しやすい環境ということなのでしょう。
まずは、メールや電話で事件の概要をお伝え下さい。相談の日時を決定致します。
弁護士が直接お客様と面談し、相談に応じます。この際、適切な解決方法を提案致します。
経験や判例を基に、相手方との交渉の準備をします。
相手方と実際に交渉を行います。交渉がうまくいかなくなった場合には、調停・裁判となります。